燻金

幸いにして、いまのところ友人といえるほど近しい人にはいないが、

ぽつぽつと知っている人が心を病むのを目の当たりしたり、聞いたりすることがある。

その度に、自分は仕事できついときに、死にたいではなく殺すぞと思える

メンタルで本当によかったと思う。

 

日経ビジネスソニー平井会長の記事に記された

彼の出自への言及には、大いに心が震えた。

平井氏のような戦後間もない時代でも、

思春期での頻繁な国際間の往来ではなかったが、

それでも二十数年前といえば、欧米での日本への差別も、

日本での帰国子女への半ば畏怖めいた忌避の色も、今よりずっと強かった。

 

ソニー 平井一夫会長#1 「傍流」だからこそ強い:日経ビジネス電子版

 

ハーフやクォーターの芸能人のことを

「素敵」だの「憧れる」だの言っているあいつらが、

小学校のときに帰国子女の俺や欧米風な容貌の彼を「ガイジン」と

からかっていた事実を俺はずっと憶えているからな。

 

帰国子女に対して「英語が喋れていいな」「羨ましい」などとのたまう連中も、

幼少期での居場所の喪失やアイデンティティの撹乱による孤独と恐怖、

それを再獲得・再構築していくための困難になど、露ほども思いが及んでいない。

 

結局のところ連中はみな、想像力を著しく欠き、

自らの発言に責任を負っていないのである。

 

能力の欠如は仕事に支障をきたすことがあっても、

他人に害を与えるほどのことにはならないと思っている。

仕事において他人に害を与えるのは、やはり想像力と責任感の欠如だ。

適当なことを言っている連中に対していつか見ておけと念じながら、

今日も酒を煽って床につく。